曲が完成してマキシマイザーなどで音圧を上げてみたものの、なんだか全体的にボワボワとこもって聞こえる、そんなふうに感じた方もいると思います。
この項ではそんな曲の音抜けをよくする方法を紹介します。
音をクリアにする方法1:いい音で録る
まずはボーカルや楽器、ハードウェア音源をパソコンに録音する場合についてです。
ものすごく当たり前なことですが、いい録音機材を使って適正なレベルでレコーディングをすれば音質は上がります。そのようにして録られた解像度の高いサウンドは、抜けのいい音になります。
とはいうものの、いい機材なんて言い出したらキリがないので、まずは録音レベルをしっかり合わせるところからはじめましょう。これだけでも大分変わってきます。
しっかり合わせるとはどういうことかというと、できる限り大きな音で録るということです。といっても0dB(デシベル)を超えてクリップ(音の最大レベルを超えて歪むこと)しては意味がないので、波形のピークが0dBを超えない範囲でできるだけ大きく、という意味です。
リミッターやコンプを軽くかけておくのも効果的ですが、あまり大きな音で録ると今度は取り込んだ後に編集するのが大変なので、ピークを抑える程度にしておきましょう。ただし、これはハードウェア音源をライン入力で録音するときの話で、ボーカルやベース、ドラムなど音量差の大きいものをマイク録音する場合は、コンプでしっかり補正して取り込むこともあります。
一番よくないのは、小さな音で録ったものを後で持ち上げることです。どんなにSN比(音声信号とノイズの比率)がいい機器を使っても、これをするとノイズも一緒に持ち上がり、クリアな音にすることはできません。
ちなみにソフトシンセオンリーの場合は、パソコン内部でバウンス(オーディオデータに変換すること)できるので上記のことはあまり関係ないです。もちろんMIDIデータを小さい音のままバウンスしてオーディオデータ化したものを後で大きくするという場合は、音が変わってきてしまうので注意が必要です。
コンデンサーマイクを使ってみる
ボーカルやアコースティック楽器の録音にダイナミックマイクを使っている方は、それをコンデンサーマイクに変えるだけでもかなり音質の向上を感じられると思います。
コンデンサーマイクは高くて管理が大変そうというイメージがあるかもしれませんが、最近ではダイナミックマイクと同じくらいの価格帯で手に入る安価なものも多く出ていますし、管理に関しても密閉できるケースやパックと、シリカゲルなどの除湿剤を使ってデシケーターの代用ができます。壊れても、どうせ安かったし……とあきらめがつきます(笑
マイクについては「ダイナミックマイク/コンデンサーマイクのオススメ」の項で。
音をクリアにする方法2:EQ(イコライザー)で整える
抜けの悪いモコモコした音というのは、たいてい出すぎた中低域が原因の場合が多いので、そのあたりを調整します。
ただ、中低域というのはこもりの原因となることも多いのですが、音の厚みや存在感を支える重要な部分でもあるので、なんでもかんでもバッサリやらずにバランスを見る必要があります。
具体的な方法としては、曲全体を音の周波数の高低で考えて、どの楽器がどこの周波数を中心に鳴っているのかをイメージして調整するといいでしょう。
これは音圧にも関わってくるもので、帯域の住み分けができたバランスのいい音はコンプなどでパッツンパッツンにしなくても軽い調整でしっかり大きく聴こえます。
また、リファレンスCDを使うのも効果的です。リファレンスCDとは曲のバランスの参考にするプロの曲のことで、主にミックスの際に使われます。
あわせて読みたい>>音圧感の基準の決め方 – リファレンス曲について
こういう音質・音圧にしたい、という自分の理想の曲を用意しておき、自分の曲と聴き比べることによって、補正が必要な部分が見えてきます。
特にボーカル録音は音のトリートメントが重要になりますが、リファレンスとなる曲のボーカルの響き、厚みを参考にしてEQを調整すると、すっきりとしつつ存在感もあるバランスのいいボーカルが作れます。
音をクリアにする方法3:マルチバンドコンプレッサーを使おう
マルチバンドコンプレッサー(マルチバンドコンプ)とは、各帯域ごとにコンプレッサーをかけることができるエフェクトのことで、現在の音楽制作に欠かせないツールのひとつです。
この項では音をクリアにする方法として4つのアプローチを紹介していますが、その中でも一番効果がはっきりわかるのがこのマルチバンドコンプだと思います。
曲全体にコンプをかけると中低域が強調されてしまったり、アタックが潰されて音がこもって聞こえてしまうことがあります。
マルチバンドコンプでは、いくつかに分けられた帯域ごとにコンプをかけることができるので、狙い通りのサウンドを作ることができます。これは特に生バンド系のサウンドに効果を発揮します。
これらマルチバンドコンプは、ぱっと見設定が面倒くさそうですが、ほとんどのものにはマスタリングに適した設定のプリセット(finalizeやmaximizeやmasterなど、最後に使うっぽい名前のプリセットがあると思います)を備えているので、まずはそれらを試してみて、その後各パラメーターを調整するといいでしょう。
マスタートラックにマルチバンドコンプをインサートした後それらのプリセットを選択し、それぞれのバンドのゲインを上げ下げするだけでもはっきりした効果を実感できます。
ただこれはあくまでコンプなので、スレッショルドをコンプが動作する値にしておかないと、EQ的な効果しか得られないので注意しましょう。
マルチバンドコンプはフラッグシップグレードのDAWには大抵バンドルされていますが、ミッドレンジグレード以下のものになるとついていない場合もあります。
単品で買うとすればプラグイン界のロールスロイス(?)、プロ御用達の「WAVES L3」があります。Multimaximizerという名称のこのエフェクトは、ナチュラルに、そしてがっつりと音圧を上げることができます。
L3にはMultimaximizerとUltramaximizerがあり、細かい周波数コントロールができるMultimaximizerに比べUltramaximizerはシンプルな操作系になっているので、各トラックにはさんでの使用にも適しています。
またL3には3つのバージョンがあり、古い順からL3→L3-LL→L3-16という流れになっています。新しいものには古いバージョンのものも収録されており、それぞれ音のキャラクターが微妙に異なります。
謎の価格変動があり、異常に安く買えるときがあるので購入前に価格比較をすることをオススメします。
→WAVES L3製品情報(メーカーサイト)
iZotope Ozoneは、マキシマイザーやEQなどマスタリングに役立つツールがセットになった強力なプラグインで、マルチバンドのコンプレッサーももちろん搭載されています。
マスタリング系のプラグインを補強したい方にもオススメ。
→iZotope Ozone製品情報(メーカーサイト)
フリー(無料)のマルチバンドコンプ
エレクトロニックミュージックのトラックメイカーに人気のソフトシンセ「Serum」。その開発元のXFER RECORDSから、フリーのマルチバンドコンプレッサー「OTT」が配布されています。
プリセットが付いていませんし、シンプルではあるのですがあまりなじみのない操作パネルのため、音をクリアにするためにどう使えばいいかわからない方もいるかと思います。
というわけでDTM初心者のための「省エネ」作曲講座らしく、使い方と設定例を紹介したいと思います。最適な設定は曲によって異なるのであくまで設定例のひとつということで。
上の音源は、最初の2小節がコンプなしで、後の2小節がコンプありです。設定例といってもほとんどいじっていませんが……。
かなり抑えめな設定ですが、サウンド全体が明るくクリアになっていることがわかると思います。音がちょっと大きくなるので、単純な比較はしにくいかもしれません。ゲインもそんなに上げていないし、波形的にはほとんど変わらないんですけどね。
クリアにする方法ですが、基本的に中低域をコンプで抑えると、高音が際立ってシャキシャキとしたサウンドになります。その際、中低域を圧縮するだけだと音が痩せてしまうので、ゲインで補うことを忘れずに。
パラメーターをざっと説明すると、Depthはコンプでいうところのレシオで、Timeは圧縮が解除されるまでの時間、In Gain、Out Gainは入力ゲインと出力ゲインです。
縦に3つ並んだメーターは、上からHigh(H)、Mid(M)、Low(L)で、メーターの中にある黒い部分がスレッショルドになっています(左右に動かすことで調整可能)。右のツマミはそれぞれの帯域のゲインです。
Upwdはスレッショルドの値以上の音に対してのコンプの効き具合を調整し、Dnwdはスレッショルド以下の音に対してのコンプの効き具合を調整します。試しにDnwdの%の値を大きくしてみると、サウンド全体にコンプがかかったようになったのですが、正直スレッショルドを下げることとの違いがよくわからない……。
コンプで使われる単語については、コンプレッサーの使い方&テクニックの項を参考にしてみてください。
ちなみにこのプラグインは音圧上げにもかなり役立ちます。
OTTの詳細な使い方については、SONICWIREのサイトから日本語マニュアルをダウンロードすることができるので興味がある方はぜひ。内容的にはここに書いてあることとそう変わりはないですけども。
音をクリアにする方法4:リバーブを切る
上記のことを試してみてもまだなにかモワモワするように感じるなら、すべてのリバーブを切ってみましょう。
音に広がりと奥行きを出しゴージャスに聞こえる効果をもたらすリバーブですが、余分な低域が含まれている場合もあり、それらの音が何トラックも重なると抜けの悪さの原因になります。
その後、リバーブのかかったトラックをひとつずつ、かける量を調整しながら戻していきます。
ローとハイのレベルを調整できるタイプのものでしたら、低域にかけるリバーブのレベルを下げてみるのも効果的です。