ミックスの基本 – ボリュームとパンの手順とテクニック【初心者のためのミックス講座1】

ミキシングエンジニア
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曲作りにおけるミックス(ミキシング)とは、各トラックの音量やパン(音の左右の定位)、音質を調整し、ひとつにまとめあげることを指します。
これは決して特別なことではなく、はじめて曲を作った方でもミックスの存在を特に意識することなく自然としている作業だと思います。

とはいえミックスは奥が深いです。

それだけで独立した職業(ミキシングエンジニア)になっているくらいですから、曲作りにおいていかに重要かがわかると思います。

誤解を恐れずいえば、いまいちな曲でもミックスがよければそれなりに聴こえますし、逆にいい曲でもミックスが悪ければいまいちに聴こえてしまいます。
いいミックスは、魔法をかけたかのように曲を一段階引き上げる力を持っています。

ここではミックスの基本的な手順とコツについて紹介しています。
ぜひ参考にしてみてください。

基本はボリュームとパンの調整

ミックスの基本は、各トラックのボリュームとパンの調整です。

DAWにはハードのミキシングコンソールっぽい外観のミキサーがあると思うので、それを使って曲作りモードからミキシングモードに気持ちを切り替えて作業するのもいいですし、曲作りの延長で、アレンジウィンドウでトラックをひとつずつ選択して調整していってもかまいません。やりやすいほうを選択しましょう。

DAWのミキサー

DAWのミキサー
各トラックのボリュームやパンなどを調整できる

ボリュームは0dBを超えないようにする

音量の単位にはdB(デシベル)が使われます。
デジタルオーディオにおいては0dBが基準となっていて、それよりも大きい音はクリップ(音が割れたり歪んだりすること)してしまいます。
そのため各トラックの音量は、基本的にマイナスのdBで調整していくことになります。

もっとも各トラックのフェーダーを0dBより上に設定したからといってただちにクリップするわけではなく、それぞれの元の音の大きさによるわけですが、要するに「曲全体で0dBより大きい音にしない」、ミキシングではこれを目安にしてください。

実際には0dBより大きい音をカットするようなプラグインエフェクト(リミッターやマキシマイザー)を最後に使うわけですが、ミックスの段階ではそういったエフェクトを使わない状態で、0dBに収まるレベルの音量にしましょう。

各楽器のパン設定の例

パンは音が左右のスピーカーのどこから出るかを設定する機能のことです。
各トラックごとについていて、C(Center)、L(Left)、R(Right)で表記されます。

Cubaseの場合、パンは左右それぞれ100段階に分かれています。たとえばL1、L2、L3……と数字が増えるごとに音は左から出るようになっていき、L100だと左からのみの出力になります。

楽器の音の定位をどこにするかについては、まあ自由といえば自由なのですが、だいたいの楽器は定位置があるので、特別な狙いがないかぎりそこに合わせておくといいと思います。

ドラム

ドラムセット

バンドサウンド系のものは、基本的にドラムセットに沿った配置にします。左右の配置をドラマー側から考えるのか、観る人側から考えるのかという問題がありますが、その辺は決まっているわけではないのでお好みで。

右利きのドラマーで、観る人側からの視点で配置すると、キック(バスドラム)とスネアはセンター、ハイハットは右寄り、ライドシンバルは左寄り、クラッシュシンバルは左右両方、となります。
タムは右から左に向かって高→低となるのが一般的です。小節の終わりなどで、ドコドコとタム回しするところではしっかりと左右に割り振るパターンが多いです。ハイタム(右)→ロータム(真ん中)→フロアタム(左)といった感じで。

クラブミュージック系だとハイハットもセンターに置くことが多いです。
クラッシュシンバルは1種類ならセンターかもしくは左右どちらかに少しずらして、音の高低が異なる2種類を使う場合はバンドサウンド同様左右に割り振ります。

ボーカル

女性ボーカル

ボーカルのパンの定位置はいうまでもなく真ん中です。ど真ん中です。
エレクトロニックミュージックでボーカルのサンプルを細切れにしたようなものの場合、もっと自由に配置されることもありますが、まあそれは例外ということで。

コーラスもセンターでいいのですが、音を左右に思いっきり広げて使うことで、メインのボーカルと干渉せず、なおかつサウンドに厚みを加えることができます。

左右に広げるには、ステレオイメージャーのようなプラグインやステレオのショートディレイを使ったり、2本のコーラスを左右に振り切って置くといった方法があります(1本の同じコーラスを左右に配置しただけではステレオ感は出ません)。

ベース

エレクトリックベース

曲の基礎となるベースの定位もセンターが基本です。
ステレオ録音ができるようになった当初は、その特性を生かすためなのかあるいは技術上の問題なのか、楽器をきっちり左右どちらかに割り振った曲もありましたが、現在ではベースはセンターが定位置となっています。

ピアノ

ピアノ

ピアノの場合は、曲の中での使われ方によってパンの位置も変わってきます。
たとえばピアノ伴奏がメインのバラード曲ならセンターに置くべきですし、複数の楽器をバッキングとして使う曲なら、左右どちらかにピアノを寄せて反対側に対になるようにほかの楽器を置くとバランスがよくなります。

音域が広く存在感のある音色なので、左右どちらかに振り切って配置するのはオススメできません。左右どちらでも、やや中央よりにするといいでしょう。

ちなみにピアノのソフトウェア音源では、鍵盤の配置と同じく高音は右寄り、低音は左寄りで鳴るように設定されているものもあります。

今ふと思ったのですが、この設定は演奏者視点なわけで、そう考えるとドラムのパン設定も演奏者視点にしたほうがいいのかなと。
いや、まあやっぱり好みでいいと思います(笑

ギター

エレクトリックギター

ギターも曲によってパンの振り分けはまちまちなのですが、基本的に左右にきっちり振り切って配置することが多いです。
コーラスと同じく、ショートディレイを使って音を左右に飛ばすテクニックが使われることもあります。

ライブ感あふれるサウンドにしたいなら、ステージでのポジションと同じく右にリードギター、左にリズムギターを配置し、左右に広げすぎないようにするとまとまりが出てきます。

間奏でのソロギターは真ん中寄りの配置にしましょう。

ストリングス・ブラス

オーケストラ

たとえばストリングスを中心とした曲で、バイオリンやチェロ、コントラバスなど、それぞれのパートを用意している場合は、ドラムと同様実際のセットと同じようにすればいいのですが、ポップスなどで管弦楽器を使う場合は、それにとらわれずに自由に配置しても問題ありません。「ストリングス」としてひとまとめにされた音色を使うことも多いですし。

ちなみに弦楽器の配置は、一番左が第1バイオリン、その右側が第2バイオリン、真ん中やや右がビオラ、その右側がチェロで、一番右がコントラバスになります。左から右に行くにしたがって音が低くなる感じですね。

シンセ

シンセサイザー

シンセの配置に関しては当然ながら自由です。
シンセといってもさまざまな音色がありますし、パッドなら中央、効果音的に使うなら左右どちらかにずらすといった具合に音色に適した配置にしましょう。

ボーカルやベース、キックといった曲の芯になるようなものはすべて真ん中に置かれ、センターあたりは音が渋滞しがちなので、少しでもずらして配置するといいと思います。

ミックスのはじめ方

どこから手をつけるかについてですが、キックとベースという低域からはじめる人が多いです。
曲の土台である低域を固めてからそのほかのパートをそれに合わせて調整していくという考え方ですが、実際はいろいろなパートをあちこち行ったり来たりしてちょこちょこと調整を繰り返すと思うので、絶対低域からはじめなくてはいけないというわけではなく、ボーカルを際立たせたかったらボーカルからはじめても問題ありません。

まあ曲を量産化していく上でミキシングの流れをある程度固定化したほうが楽なので、あまり深く考えずにキックとベースからはじめていくのもありだと思います(笑
大事なのは自分なりのミキシングスタイルを作るということです。

ちなみに自分の場合はキックからはじめます。
いろいろなジャンルを作っていて曲ごとにキックの種類や音量も変わってくるので、具体的に何dBにするとはいえないのですが、すべてのトラックが重なったときに、マスタートラックでの音圧上げをしていない状態で、音量がピークメーターの0dBに少し届かないくらいを目安にしています。
一度そういったミックスを作ってみて、そこから逆算していくと、自分なりの数値が出せると思います。

楽器の配置を3Dで考える

音の配置を3Dで考える

のっぺりしたサウンドにならないようにするためには、それぞれの楽器の配置を3Dで考えるといいでしょう。

低域を支えるキックとベースの定位はセンターで、中域のカッティングギターは左右に割り振る。高域のベルは右寄りで、低めのブラスはやや左寄り。

上記は一例ですが、こんな感じで音の上下左右を決めていきます。このとき奥行きを意識することが大切です。

たとえばピアノのトラックがあるとして、音量が大きめで明るい音色の場合、その音は前に出てくるように感じます。
反対に音量が小さく落ち着いた音色で、若干こもって聴こえる音は、奥で鳴っているように感じます。
このように音の上下左右だけではなく前後も意識することで、立体的な音像にすることができます。

空間全体を広くバランスよく使い、偏りがないように音を配置していきましょう。