これまでボリュームとパンの調整、EQの設定について解説してきましたが、これらと同じくミックスにおいて重要になるのが今回紹介するコンプレッサーです。
コンプレッサーとは圧縮機を意味する単語ですが、その名の通り、音をギュッと圧縮する機能を持っています。
……といってみたところで「なんでわざわざ圧縮しないといかんの?」という疑問を持つ方もいると思うので、その役割を一から解説していきます。
ちなみに音楽制作におけるコンプレッサーは「コンプ」と略すことが多いです。
なぜコンプレッサーを使うのか
コンプレッサーの役割を簡単にいうと、出すぎた音を押し潰してならすことです。それによって音が小さい部分との音量差が縮まり、音圧が上がります。
音圧が上がると音が前に出てきてはっきり聴こえるようになり、いまいちなスピーカーでもそれなりに聴こえるようになります。
コンプレッサーを使う理由としては、上記のことが一番にあげられます。つまり多くのリスナーにとって聴きやすい音にする、ということです。音圧を上げて音が大きく聴こえるようにすることで、迫力を出したりほかの曲よりも目立つようにする、という用途もありますが、それはあくまで副次的なものです。
音の強弱の差をダイナミックレンジといいますが、音量にばらつきがあってこの差が大きいと、聴きにくい音になってしまいます。
たとえばクラシックのCDを聴くと、音がジャジャン!と大きく鳴るところと、静かに鳴るところの差が大きいです。あまり大きな音を出せない家だと、音が大きくなるところでボリュームを絞って、音が小さくなるところでボリュームを上げる、なんてことをしている人もいるかもしれません。
コンプレッサーを曲全体にかけると、こういったばらつきを抑えることができます。
じゃあクラシックにもコンプをかければいいじゃん、と思うかもしれませんが、音の強弱が非常に重要な要素であるクラシックは特別で、できるかぎり生の演奏の臨場感をCDに収めるために、音量差を小さくするような方向のミックスは行いません。
ではクラシック以外のジャンルの場合は、音を圧縮してダイナミックレンジをひたすら小さくすればいいのかといえばそうではなく、のっぺりした平面的な音にならないように、音圧をしっかり上げながらも抑揚を失わない音作りが求められます。
そこのさじ加減こそが、ミックスの肝だといえます。
どこにコンプレッサーを使うのか
各トラックから曲全体まで、音量にばらつきがあると感じたところにはどこでもコンプレッサーを使ってOKです。
コンプレッサーを使うべきところとそうじゃないところの基準がわからない、という方は、とりあえずドラム、ベース、ボーカル、曲全体にかけてみましょう。ギターやピアノも音量差の大きい楽器なのでコンプレッサーが必要な場合が多いです。となるとほとんど全部になっちゃいますね(笑
いずれにせよコンプレッサーによるサウンドの変化が感じ取れるようになると、段々とコンプレッサーをどのようにかけるべきかがわかるようになってきます。
曲全体にコンプレッサーをかけるなら個別にかけなくてもよくない? と思うかもしれませんが、ピークがそろっていない音の集まりを最後にまとめてギュッと一律に潰すのと、各トラックでしっかりピークを抑えたものをまとめてもう一度コンプレッサーをかけるのとでは、音に違いが出てきます。もちろん後者のほうが、曲の抑揚を失わずに迫力のある音になります。
コンプレッサーを積極的な音作りに利用する
今まで紹介してきたコンプレッサーの用途は、なるべく元の音を変えないように、ピークを抑えて音圧を上げて聴きやすくする、という「補正」のためのものですが、コンプレッサーにはもうひとつ、「積極的な音作り」という使い方があります。
コンプレッサーで極端に圧縮すると、独特の歪みが音に付加されますが、それを音作りに生かすという方法です。どの楽器にも適用できますが、特にドラムに使われることが多いです。
これはコンプレッサーの種類によってかなり音も変わってくるので、それぞれのコンプレッサーの音質の違いを把握しておくことが大切です。
コンプレッサーとリミッターとマキシマイザーの違い
コンプレッサーはDAWのエフェクトの中で「ダイナミクス系」としてまとめられています。
そこにはコンプレッサーのほかにもリミッターやマキシマイザーというものが含まれています。
コンプレッサーとリミッターは、設定した値よりも大きい音に作動するという機能においてはだいたい同じなのですが、その仕組みに違いがあります。
コンプレッサーが設定値より上の音を圧縮するのに対し、リミッターは設定値を絶対に超えないように圧縮するものです。
ミックス講座1でも述べたのですが、デジタルオーディオの世界では音量全体を0dB以下にしないとクリップ(音が割れる)してしまうので、それを防ぐために使われます。
マキシマイザーも動作としてはリミッターと同じなのですが、こちらは音圧上げに特化したものといえます。ツマミをまわすだけで簡単に、しかもナチュラルに音圧を調整することができます。
すべてのトラックが集まるマスタートラックにインサートして、曲全体の最終的な音圧上げに使われることが多いです。
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