Childish Gambino「This Is America」がすごい!/MVは日本人ディレクターのヒロ・ムライ

This Is Americaの考察
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アメリカのラッパー兼、俳優、コメディアンのドナルド・グローヴァ―(Donald Glover)aka チャイルディッシュ・ガンビーノ(Childish Gambino)の新曲「This Is America」がすごいことになっています。

Youtubeにミュージックビデオを公開後、5日で5,000万再生を超え、SNSや各種メディアでそのMVの内容について侃々諤々の意見が交わされています。

MVのディレクターは日本人のヒロ・ムライ

ミュージックビデオのディレクターは、東京生まれLA育ちの日本人ヒロ・ムライ(Hiro Murai)。Childish Gambinoの映像作品の多くは彼の手によるものです。
彼はデヴィッド・ゲッタ(David Guetta)やフライング・ロータス(Flying Lotus)などのアーティストのMVも手がけていて、その個性的な映像が話題になっています。

MVだけでなく、ゴールデングローブ賞の作品賞(テレビの部。ミュージカル/コメディ部門)を受賞したアメリカのコメディードラマ「アトランタ(ATLANTA)」の監督を務めるなど、今アメリカで注目を集める新進気鋭の映像クリエイターです。

This Is America

がらんどうの倉庫。陽気なコーラスと、椅子に座った黒人男性によるギターからビデオははじまります。
カメラが移動するとそこには上半身裸のガンビーノの姿が。
ガンビーノが黒人男性のもとに来ると、いつのまにか男性は覆面を被せられています。
突然、銃を手にしたガンビーノが後ろからその男性の頭を撃ち抜きます。
曲調が変わり、不穏なベースラインが流れる中、ガンビーノが言います。

「This Is America(これがアメリカだ)」

この映像の内容とThis Is Americaというタイトルから、歌詞の内容を理解できなくても、これが現在のアメリカを映し出しているものだということはわかると思います。
その背景にあるのは黒人射殺事件や銃乱射事件、そしていまだ根強い黒人差別です。

MVの中で起きることの多くは実際の事件をもとにしていて、そのほかにもさまざまな今のアメリカに関する寓意が含まれています。
それらについては海外サイトを中心に、すでに多くの分析がなされています。

日本に住む自分にとってそういう事件というのはニュースで伝え聞いたものでしかないので、このMVが提示するものを実感として受け取ることは難しいです。

海外サイトの受け売りで、このシーンはこういう意図があって云々と書くのはあまり意味がないですし、それらをすべて読み解いたところで、自分たち日本人にとっては、へーそうなんだ、という程度の感想にとどまりそうな気がするので、自分がなぜこのMVに惹かれたのかということについて書きたいと思います。

テーマが明確でわかりやすい

穏やかで陽気な音楽が、銃の登場を引き金として(文字通り)、突如としてダークな雰囲気なものに変わります。
正直この演出が斬新かといえば、そこまでのものではない気が。ただこれを誰が見たとしても、アメリカの現状を伝えようとしていることは理解できます。

このMVを見ることで、ニュースでそうした事件のことを知るよりも、世界一の大国であるアメリカが抱える問題というものを考える機会になるのではないかと思います。

ダンスがかっこいい

ガンビーノと子どもたちがダンスをしているシーンがシンプルにかっこいいです。
これは南アフリカで人気のGwara Gwara(グァラグァラ)というダンスで、黒人のルーツであるアフリカを象徴的に表すために用いられているのではないかと思います。

抑制された演出

最初の発砲シーンで、多くの人がストーリーに引き込まれると思います。その後も無垢な聖歌隊が撃ち殺されたりしますが、そこからもっとエスカレートして、ある種戯画的にどんどん人を殺していくような展開にすることもできたはずです。しかしそうすることなしに、破綻しないギリギリのラインを保ったままMVは続いていきます。
一見ハチャメチャに見せつつ、抑えるところは抑えた演出が素晴らしいです。

ガンビーノの演技

途中で音楽が途切れるところの、銃を構える仕草をしたガンビーノの諦念に満ちた空虚な表情、そしてそこからジョイントに火をつけ、意を決したかのように歩き出すシーンが強く心に残りました。
踊り狂っていた彼がふと現実に戻った瞬間。だが進むしかないんだという気持ちが表れた絶妙な演技です。

諧謔精神

暴動が起きているのをよそに、ガンビーノと子どもたちは楽しげに踊り続けます。その奇妙な対比は、アメリカ社会の二面性ともいえるのではないでしょうか。
曲の最後のほうで、陽気なコーラスと不穏なベースラインが交じり合うところがありますが、この2つを内包するのがアメリカだということを示しているように聴こえます。

このMVは暴力に満ちた社会を描いているにもかかわらず、重い気分にならないどころか不思議と爽快感さえ残ります。
アメリカが通底に持つ諧謔精神(ユーモア)が、このMVにもあるからだと思います。

 

以上、Childish Gambino「This Is America」についてでした。

もし「This Is Japan」なんてものがあったとしたら、どんな内容になるんだろうかと考えてしまいました。おそらく現実社会における実際の暴力よりも、ネットにおいて剥き出しになる人々の悪意が中心になるのではないでしょうか。

いやー、やっぱり考えさせられるMVですし、語りたくなるMVでもありますね。
みなさんはどう感じましたか。

2018.5.10