店頭やオンラインストアには、数千円から十万円近いものまで、多くの作曲ソフトが並んでいます。
その中で、これからパソコンを使った音楽制作をはじめようと思っている方にオススメするのはDAWと呼ばれるソフトです。
DAWとはなにか
DAWとは、Digital Audio Workstation(デジタル・オーディオ・ワークステーション)の略です(読み方は「ディーエーダブリュー」または「ダウ」)。これは特定のメーカーの製品名ではなく、音楽制作ソフトのジャンルのことです。
このソフトひとつで、音符の打ち込み(MIDI/ミディ)、マイクを使った録音(オーディオ)、エフェクトによる音の加工、ミキシング、そして最終的な音質調整であるマスタリングまで、曲作りのすべてを行うことができます。
かつては、個人が使うパソコン用の音楽制作ソフトといえば、音符の入力に特化した「シーケンスソフト」を指すのが一般的でした。当時のDTMというのは、MIDIという規格を使って外部のハードウェア音源(音源モジュール)を操作することが主目的で、レコーディングやマスタリングは、専門スタジオで行うプロの領域というイメージが強かったのです。
しかし、DAWの登場により、音楽制作ソフトは外部音源のコントロールだけでなく、マイクやギターから録音した音の編集、バーチャル楽器(ソフト音源)の演奏、エフェクト処理、そしてミキシングやマスタリングまで、曲作りの全工程を1本でこなせる、まさに「万能ツール」となりました。
ちなみに現在のDAWには、プロ・アマの垣根は基本的にないといっていいです。ソフトの価格が全体的に下がり、パソコンの性能も向上したことで、プロが使用するものと同じ環境を、アマチュアでも手軽に使える時代になっています。
主要なDAW
現在、よく使われている主要なDAWには、以下のようなものがあります。
- STEINBERG Cubase(Win/Mac):プロの使用者も多い老舗のDAW。どんなジャンルにも対応できる万能型DAWの代表格。
- APPLE GarageBand(Mac/iOS専用):Macに無料で付属する入門用DAW。直感的な操作で誰でもすぐに曲作りをはじめられ、上位版のLogic Proへのステップアップもスムーズ。
- APPLE Logic Pro(Mac専用):GarageBandの上位版。高品質な付属音源やループ素材が魅力。
- ABLETON Live(Win/Mac):ループを使った直感的な作曲や、ライブパフォーマンスに圧倒的な強みを持つ。
- IMAGE LINE FL Studio(Win/Mac):ステップシーケンサーが特徴的で、ヒップホップやEDMのビートメイクで絶大な人気。
- PRESONUS Studio One(Win/Mac):後発ながら、洗練された操作性で人気が急上昇中。作編曲からマスタリングまでスムーズ。
- AVID Pro Tools(Win/Mac):プロのレコーディングスタジオの業界標準。オーディオの録音・編集機能が非常に強力。
これらのDAWは、付属する音源・エフェクトの数や機能によって、いくつかのグレードに分かれている場合があります。
DAWの選び方 6つのポイント
上であげたDAWは、音楽制作という点において、基本的な機能の差というのはほとんどありません。
録音した音を編集できるオーディオパートと、打ち込みで音を作るMIDIパート、それらを統合するミキサーパート、大体こんな感じです。
操作性についても結局のところ「慣れ」が重要なので、どれが一番使いやすいというのは特にないといえます。
では、何を基準に選べばいいのか。選択に役立つ6つのポイントを紹介します。
1. 使っているパソコンのOS
基本中の基本ですが、お使いのパソコンがWindowsかMacかを確認しましょう。GarageBandとLogic ProはMac専用なので、Windowsユーザーは選択肢から外れます。それ以外の多くは両OSに対応しています。
2. 価格とグレード
DAWの価格は、グレードによって大きく異なります。一般的に、以下のような3段階のグレードが用意されています。
- 入門版(エントリー): 約1万円〜2万円。機能は制限されますが、基本的な曲作りに関しては問題なく行えます。
- 標準版(スタンダード): 約2万円〜4万円。ほとんどのユーザーにとって十分な機能を備えています。
- 最上位版(プロ): 約4万円〜10万円。プロが必要とする高度な機能や、豊富な音源・エフェクトが付属します。
まずは入門版から始めて、もの足りなくなったら上位版へアップグレードする(差額を払って乗り換える)という方法もアリですが、個人的には最初からスタンダード以上にしておいたほうが、曲作りの自由度が上がるのでオススメです。
ちなみに、これらのソフトにはアカデミック版が存在する場合が多いです。学生や教職員の方は、身分証明書の提示などで通常より安く購入できるので、ぜひチェックしてみてください。
3. 作りたい曲のジャンル
基本的な性能差は少ないと書きましたが、DAWごとに得意な分野や思想の違いはあります。自分のやりたい音楽が明確な場合は、それに適したDAWを選ぶと制作がスムーズに進みます。
- EDMやヒップホップのビートメイクがしたい→ FL Studio、Ableton Live
- ループ素材を組み合わせて直感的に作りたい→ Ableton Live、Logic Pro
- ジャンル問わずオールラウンドに使いたい→ Cubase、Studio One
- バンドの録音や編集がメインでスタジオ作業もする予定→ Pro Tools
4. 付属している音源・エフェクト
DAWには、最初からたくさんのソフトウェア音源(ソフトシンセ)やエフェクトが付属しています。この「おまけ」の質と量が、コストパフォーマンスに大きく関わってきます。
現在のDAWは、付属音源・エフェクトのクオリティが非常に高く、別途買い足さなくてもかなりの範囲をカバーできます。各公式サイトでどんなものが付属するのかチェックしてみましょう。
5. 好きなアーティストが使用している
どれを選んだらいいのかよくわからなくなった方向けです(笑
好きなアーティストと同じDAWを使うと、曲作りのモチベーションが上がったりするので、意外と有効な選び方かもしれません。
6. 人気と情報量
身もふたもないですが、人気があるソフトを選ぶのが無難です。人気があるということはユーザーも多いということであり、関連書籍やWeb上の解説記事、YouTubeのチュートリアル動画などが豊富に見つかります。
操作に困ったときに、検索すればすぐに解決策が見つかるというのは、特に初心者にとっては非常に心強いメリットです。
日本国内でいうと、Cubase、Studio One、Logic Proの人気が高いです。このあたりを選んでおけば、情報量で困ることはまずないでしょう。
目的別オススメのDAW
ここまでDAWの選び方についていろいろ書いてきたわけですが、結局どれを選べばいいの? という方もいると思うので、独断でオススメのDAWを決めてみます。まあどのDAWも機能は十分にあるので、結局は使い方次第なんですけどね。
とにかく無料ではじめたい
MacならGarageBand一択です。Macに最初から入っているDAWで、機能も十分。
WindowsではCakewalk。元々は高価なプロ用ソフトだったものが完全無料に。
コスパを最優先したい
Studio Oneなら、最上位版のDAWが2万円台で手に入ります。
Logic Pro(Mac専用)も、30,000円の買い切り価格で膨大な音源・エフェクトが使えます。
ヒップホップやEDMのトラックメイキングをしたい
ループ素材を組み合わせながらの曲作りや、ライブパフォーマンスでの使用も視野に入れるならLive。
EDMやTrapを作るなら、直感的なステップシーケンサーが強力なFL Studio。
プロ志向
いずれはプロに、という考えなら、多くのプロデューサーに信頼されている老舗のDAWであるCubaseがオススメ。
Pro toolsについて
プロ志向といえば、レコーディングスタジオの業界標準であるPro Toolsがあげられますが、初心者の最初の1本としてはクセが強いといえます。
Pro Toolsでは独自のプラグイン形式であるAAXを採用しており、世の中の多くの無料・有料プラグイン(VST/AU)がそのままでは動作しません。これは手間なくさまざまなプラグインを試したい初心者にとって大きな壁となります。
また、Pro Toolsは、録音とミックス(編集)作業に優れていますが、ソフトシンセを使った打ち込みに関しては、他のDAWのほうが多機能であることが多いです。
まとめ
正直、DAWというのはそんなにころころ変えるものでもないので、最初の1本は慎重に選びましょう。
この記事を参考に、ぜひ自分にピッタリの1本を見つけて、音楽制作を楽しんでみてください。
ほとんどのDAWでは、あらかじめいくつかのソフトウェア音源(ソフトシンセ)がバンドルされていて、すぐに曲作りをはじめることができるようになっていますが、付属の音源ではもの足りない場合は別に音源を用意する必要があります。
最近ではソフトシンセが主流になっていますが、ハードウェア音源もライブなどでその力を発揮しています。
音源については音源の選び方の項で。
また無料で使えるDAWもあるのでフリーソフトの項をご覧ください。