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クロノトリガーとウィズ・カリファからサンプリングについて考える

クロノトリガーというRPGが好きでした。とても有名なゲームなのでやったことがある方も多くいると思います。子どものときだけでなく大人になってからもう一度プレイしてみましたが、色あせない魅力がありました。

すばらしいゲームには必ずといっていいほどすばらしいBGMがついています。クロノトリガーもその例にもれません。私が持っている数少ないゲームのサントラのひとつです。数少ないというかあとはかまいたちの夜だけですね。キングスフィールド3のサントラもほしかったのですが、プレミアがついてものすごい値段になってしまったので結局入手できませんでした。

まあ私が所有しているゲームのサントラの話は置いておいて、クロノトリガーについてですが、このゲームは海外でも人気があるようです。スーパーファミコンのゲームの海外人気なんて今まで考えたこともなかったのですが、なぜそれがわかったかというと先日とある曲を聴いたからです。


今キテると噂のアトランタのヒップホップシーン、そこで注目を集めているラッパー二人組FatKidsBrothaの「Drive Muthaf**ka Drive」です。クロノトリガーの「不思議な出来事」という曲をサンプリングしています。いかついアメリカのラッパーがクロノトリガーをやっていたのかと思うと不思議な気分になりますし、曲もそれを選ぶかって感じで渋いです。

その後いろいろ検索してみると、さらに超メジャーなラッパーもクロノトリガーをサンプリングしていることがわかりました。


泣く子も黙る今をときめくラッパーWiz Khalifa(ウィズカリファ)の「Never Been」です。この曲では「サラのテーマ」を少しピッチを落として使っています。
Never BeenはPart 2もあって(feat. Amber Rose & Rick Ross!)、こちらは「樹海の神秘」という曲をサンプリングしていますが、公式のYoutubeチャンネルでは公開していないのでここには載せません(個人的にはPart 2の方が好きです)。

おそるべきアメリカのヒップホップ界隈でのクロノトリガー人気。曲がすばらしいからこそトラックに使いたくなるのでしょう。
と、ここで曲を聴いて疑問に思った方もいるかもしれません。

まるごと曲を使うことをはたしてサンプリングと言っていいのか。

聴いてみるとわかると思いますが、これらの曲は基本的にサントラに収録されている曲にビートとラップを乗せただけのものです。最近じゃ珍しい、いわゆる“まんま使い”というやつです。
これに関しては向こうでも疑問に思っている人がいるらしく、コメント欄で熱い議論が交わされていました。
要約するとこんな感じです。

■問題ないよ派
・これは剽窃ではなくサンプリングで、サンプリングはヒップホップの文化である。
・ベースやリズムは異なるからOK。
・この曲は無料のミックステープに収録されたもので、彼はそこから利益を得ていない。
・文句があるならWizではなくプロデューサーのSledgrenに言え。

■問題あるよ派
・まるごと曲を使うのはサンプリングではなく剽窃である。
・サンプリングとは5秒とか10秒の短いサンプルを、自分のオリジナルの音源に混ぜ合わせて使うものだ。
・作曲者をクレジットに載せて金を払うべき。自分のものにするべきではない。
※クレジットに載せているとコメントしている人もいます。
・利益を得ていないというが、PVまで作ってプロモーションに使っているのはおかしい。

ここに出てくるミックステープというのはヒップホップの文化のひとつで、アルバムなどの発売に先行して、未発表曲やリミックスなどのデモ音源をまとめて発表するもので、公式に発売するものではないので、未許諾のサンプルを使ったりとかなり自由なスタイルで制作されることが多いです。その人気具合がそのままセールスにつながるなど、プロモーションとして大きな役割をはたしています。
断っておきますとここで紹介している曲が許諾を取ったものなのかどうかはわかりません。なのであくまで許諾を得ていない場合の一般論として読み進めてください。

リスナーの議論がどうあれ、著作権のある音源をサンプリングしたトラックを公開している以上、著作権者がクレームを出せばアウトになる可能性が高いと思います。一曲まるごとでもワンフレーズだけでも(原曲がわからないほど細分化したものであれば問題なしとされる可能性もありますが)。
Youtubeでは著作権管理団体との包括契約によって著作権のある曲のカバーを認めていますが、それはあくまで既存の曲を自分で楽器を弾いたり歌ったりして再現することを認めているのであって、音源そのものを許諾なしに使用することはできません。
ヒップホップ文化に理解のあるところでなら大目に見てもらえる可能性もありますが、異なる文化圏でそれを言い出してもエクスキューズにはならないのではないかと思います。クロノトリガー愛が制作意欲をわき上がらせたんだと言ってみたところで、愛じゃ飯は食えねえと言われたらそれまでです。

とまあ基本的にアウトだろうという前提を踏まえつつ、心情的にどこまでならサンプリングとしてありといえるのかを考えたいと思います(語り尽くされた話かもしれませんが)。

個人的には問題あるよ派の“サンプリングとは5秒とか10秒の短いサンプルを、自分のオリジナルの音源に混ぜ合わせて使うものだ”という意見に賛同します。
サンプリングCDの使用条件にも似たようなことが書いてありますし、一般的な認識としてサンプリングとはそういった状態のものを指すのではないでしょうか。

Wiz KhalifaのNever Beenでいえば、「サラのテーマ」をまるごと使うのは“ナシ”で、出だしのベルっぽい音の分散和音を一小節分サンプリングしてそれをループさせてそれ以外の音をオリジナルで作れば“アリ”、という感じです。

ちなみにここでいうアリとナシは“まんま使い”をした曲そのもののことではなく、それを「サンプリング」として扱うかどうかということについてであり(まんま使いをしたトラックは正直かっこいいものが多いです)、“ナシ”というのは要するにこれはもはや原曲のリミックスなのではないかということです。
まるごと使うならせめて作曲者をクレジットに載せて、自分の名前はアレンジやBeats制作者として載せるべきだと思います。そうすれば作曲者のプロモーションにもなってWin-Winになれますし(もっとも作曲者はそんな勝手なプロモーションなどいらんと言うかもしれませんが)。

まあ結局は著作権者がどう判断するかですし、この心情的なありなし基準も人によって大きく変わってくると思います。
今回取り上げたトラックは、サンプリングとしてどうなのかという個人的心情ではナシなのですが、曲全体としてはやっぱりかっこいいんですよね。なのでサンプリングではなくクロノトリガートリビュートアルバムとして、このゲームが好きだったアーティストたちが集まって公式にやってほしいです。それはそれでクロノトリガーの世界観が壊れるとファンの方に言われそうですけども。

2014.12.1


クロノトリガー オリジナルサウンドトラック

名曲「時の回廊」に癒されます